プロペシアなどの効果の高い育毛剤が出てきた現在では育毛の可能性が大幅に広がりました。
しかし、その一方で副作用の問題も大きくなっています。
薬の効果と副作用は表裏一体
プロペシアは現在最も有効な育毛剤ですが、その副作用を懸念して使用を躊躇している人は多いと思います。何を隠そう私もその一人です。
プロペシアは以下の副作用があると言われていますが、その発症頻度は服用しなかった場合と大差ないとされています。
✅射精障害
✅精液量減少
✅肝機能障害
「副作用は全くゼロではないが、その発症頻度は通常レベル」ということです。
試験結果を元にして科学的に説明するとこのようなになるのでしょうが、「副作用はゼロではない」というのは一般人からすると不安になります。
しかし、薬の効果と副作用は比例すると考えれば、納得するしかありません。
もともと薬と毒は同一のものだと言われています。人に対する作用が好ましいものであれば「薬」になりますが、悪く作用すれば「毒」になります。
この「いい悪い」はあくまでの人間側の基準なので、どんな薬も毒になる可能性があるというわけです。
薬=毒。これは薬剤師の常識だそうです。
副作用で禁止されている育毛剤
「薬=毒」という図式は育毛剤にも当てはまります。
実際にある種の育毛剤は副作用のために禁止されています。
ミノキシジル内服
日本ではリアップの商品名で発売されているミノキシジル。
リアップのように直接頭皮に塗るタイプの育毛剤は外用と呼ばれますが、リアップでは以下のような副作用が起こるようです。
リアップX5(ミノキシジル5%配合)の副作用と発現率
・接触皮膚炎 3.3%
・湿疹 3.3%
・脂漏性皮膚炎 2.0%副作用全体の発現率は8.7%
参照元:大正製薬 ニュースリリース
リアップを使用すると8.7%の確率でなんらかの副作用が発生するということです。8.7%というのは1割弱ですから、かなり高い比率ですね。
それを発売元の大正製薬が公表しているのは、このリスクに見合うだけの効果がミノキシジルにはあるということでしょう。
一方、ミノキシジルの内服薬も存在しています。ミノキシジルタブレット(通称ミノタブ)と呼ばれ、外用剤であるリアップよりも効果が高いという声があります。
ミノキシジルの効果は血管拡張作用であると考えられているので、皮膚から吸収する外用よりも、消化器官を通してダイレクトに血管に届く内服のほうが効果が高いことは素人でも想像がつきます。
しかし、ミノキシジルタブレットは日本では未承認なのです。
未承認なのには理由があります。端的に言えば副作用が強いのです。
もともとミノキシジルは高血圧の内服薬として開発されたのは有名な話です。その後、副作用で男性型脱毛症(AGA)を改善する効果があることがわかり、育毛剤に転用されました。
ただ、ミノキシジルも降圧剤としては比較的副作用が多いということで、現在は降圧剤としては使用されていないそうです。
その他にもミノキシジルタブレット(飲み薬)には、全身の多毛、赤ら顔、低血圧、反射性高血圧、腎性全身線維症(腎不全、皮膚の硬化、関節拘縮をきたし、身体機能障害に陥る病気)、高カリウム血症、多臓器不全等があります。これだけ副作用が多いため、もっといい降圧剤がある現在は、降圧剤としてのミノキシジルは役目を終えたわけです。
引用元:医師が本気で考えるAGA治療
ミノキシジル内服の一番の副作用は狭心症などの心臓に関するものだそうです。
これはミノキシジルの血管拡張作用が動脈のみに起こり、静脈には作用しないためだと考えられています。動脈が拡張された結果、心臓から送り出される血液量は増えますが、静脈は元のままなので、静脈から心臓にもどる際に心臓に負担がかかってしまうのです。
高血圧の薬なのに心臓にダメージを与える副作用があるのは致命的です。ですが、この副作用も血管拡張の効果の高さの裏返しなのです。
ミノキシジル内服の他の副作用も、以下のように高い血管拡張作用や発毛促進効果の裏返しだということができるでしょう。
赤ら顔 → 顔の血管拡張
低血圧 → 血管の拡張
反射性高血圧 → 急激な血管拡張により脳が血圧を上昇させようとする
ケトコナゾール内服
脂漏性皮膚炎などの治療に用いられるケコトナゾールは抗真菌薬で、真菌による症状に効果があるとされています。
ケコトナゾールは「ニゾラール」という薬品名で皮膚科などで処方してもらうことができますし、「コラージュフルフル」などのフケ対策用シャンプーにも配合されています。
「男性型脱毛症診療ガイドライン(2010 年版)」でも取り上げられ、一定の育毛効果があるとして、推奨度C1(行うことを推奨してもよいが、十分な根拠がない)と評価されています。
抗菌作用でフケ症や脂漏性脱毛症に効果が期待されるケトコナゾールですが、ジヒドロテストステロン(DHT)を抑制する働きもあることがわかってきました。
これはプロペシアと同じ効果ですので、男性型脱毛症(AGA)改善効果が期待されます。プロペシアと同じ働きなら、当然直接頭皮に塗る「外用」ではなく、プロペシアと同様に口から摂取する「内服」で服用するほうが効果が高いと考えられて当然です。
実際に「男性型脱毛症診療ガイドライン(2010 年版)」でも、「海外ではケトコナゾール内服による有効性を報告している論文もある」と述べられています。
しかし、ミノキシジルタブレットと同様にケトコナゾールの内服薬も国内では販売されていません。それどころか各国で販売が中止されています。
2013年、欧州医薬品庁(EMA)のヒト用医薬品委員会(CHMP)はケトコナゾール経口投与後の肝障害の危険が服用の利益を上回ったと結論し、欧州でのケトコナゾール全身投与を禁ずる様勧告した。ケトコナゾールの経口薬は豪州で2013年に、中国で2015年に販売が中止された。
ケトコナゾールの内服薬は真菌感染症だけでなく、その抗アンドロゲン(男性ホルモン)作用によって前立腺ガンに用いられたことがありますが、副作用が強すぎて上記のように各国で次々に禁止されています。
アメリカでも米国食品医薬品局(FDA)が以下のように警告しています。
2013年7月、米国食品医薬品局(FDA)は経口ケトコナゾールは重篤な肝障害と副腎障害を引き起こし得る事を警告した。その中でケトコナゾール錠はあらゆる真菌感染症に於いて第一選択薬ではない事が示された。
また、妊婦が使用した場合には胎児に影響が出る可能性があるとされています。
このようにケトコナゾール内服薬は非常に毒性の強い薬です。
日本で処方されているローション剤や配合されているシャンプーは居所への投与になるので、全身(特に肝臓と副腎)に影響を及ぼす内服薬よりは副作用は軽いと考えられているようです。
実際にケトコナゾールのクリーム剤(ニゾラールクリーム2%)に添付されている文書には以下の副作用と発現率が記載されています。
副作用合計 3.35%接触皮膚炎 1.5%
そう痒 0.9%
発赤 0.7%
刺激感 0.5%参照元:ニゾラームクリーム2%添付文書
性機能・循環器系への影響
ミノキシジル内服は狭心症や低血圧・高血圧、ケトコナゾール内服は肝機能障害と副腎障害が大きな副作用とされています。
また上の二つに比べると発現頻度はかなり小さくなりますが、プロペシアには勃起不全などの性機能面での副作用が出ると言われています。
このように効果の大きい内服の育毛剤には、性機能や循環器系に副作用が出ます。
これはこれらの育毛剤が血管拡張や男性ホルモンに作用することで育毛を促そうとしている以上、しかたのないことです。
薬の高い効果は人間にとってよい方向ばかりには向かわず、悪い方向にも向かいます。
髪には薬でも、からだ全体には毒であるという面が育毛剤にあるものもまた事実なのです。
現状ではプロペシアがベスト
ミノキシジルタブレットを服用する人は、プロペシア単体以上の効果や、プロペシアとの併用による相乗効果を期待しているのでしょう。
育毛剤の効果のみを基準に考えれば、より高い効果のものを選択するのは自然なことです。
しかし、効果の高い育毛剤には副作用がつきまといます。
効果の高い育毛剤を検討する場合には、育毛効果だけでなく、副作用が許容できるかどうかも考えなくてはいけません。以下のように育毛剤から得られる利益と不利益、どちらが大きいのか考える必要があるのです。
ケトコナゾール内服薬は、明らかに不利益の方が大きいと判断されて、各国で禁止にされています。
ミノキシジルタブレットも未だ国内で未承認なのは、明らかに利益が大きいと判断されていないからでしょう。
そう考えると国内で唯一内服の育毛剤として認可されているプロペシアが現状ではベストということになります。
もしかするとミノキシジルタブレットのほうがプロペシアよりも効果が高い場合もあるかもしれません。しかし、副作用を考えるとプロペシアに軍配が上がるというわけです。
健康と髪、どちらが大事か
「薄毛を克服できるのなら多少の副作用は我慢する」という気持ちも理解できます。
しかし、薄毛を克服したいのはよりよい生活を送りたいからのはずです。
質の高い生活を送るには健康であることが欠かせません。
「髪は生えたけれども、重い病気と一生つきあわなければいけなくなった」というのでは本末転倒です。
また、全身の健康を損なうと、それがまた薄毛の原因となる可能性もあります。
もしそうなるなら、何もせず薄毛のままでいる方が結果的に賢い選択になってしまいます。
プロペシアがダメなら別の方法を
「プロペシアを試しても薄毛が改善しなかった」
「プロペシアを服用しているけれども、もっと効果を挙げたい」
副作用の強い育毛剤を使用しようとするのは、このような考えからだと考えられます。
しかし、ここで安易に効果と同様に副作用も高い育毛剤を選んでしまうと、健康を損なってしまう可能性が高くなります。
必ずしも健康を損う結果にならなくても、リスクが高いのは事実ですから、効果とリスクを慎重に見極めながら服用をコントロールしなくてはなりません。
「育毛剤を飲んでいるから大丈夫」ということではなく、少しでも副作用が出たらすぐに服用を中止できるように気を配りながら服用しなければいけないということです。
このようなリスクの高い選択とは別に、効果は低いけれどもリスクも低い育毛法を選択することも可能です。
効果だけを基準にすればもちろん効果が高い育毛剤が選ばれるはずですが、副作用も考慮に入れると長い目で見た育毛効果が基準になるはずです。
リスクの低い育毛法はそれだけ継続しやすく、途中で中止してまた薄毛に戻ってしまうという可能性も少なくなります。
もしプロペシアで効果が出なかった、あるいはプロペシア以上の効果を出したい場合は、発想をかえて効果のみではなく、副作用の低さも考慮に入れて育毛法を検討してはどうでしょうか。