「腸内細菌」などが注目され、腸内環境を整えることの重要性が最近になって認識されるようになりました。
腸内環境を整えることは育毛にも効果があるようです。
腸と肌の関係
医学的にはっきりとしてことはわかっていないようですが、腸と皮膚は関係が深いようです。
便秘になると肌が荒れるということを経験している女性は多いと思いますが、これも腸と皮膚が関係していることを示しています。
その他にも、腸内環境を整えることで、なかなか治らなかったアトピーが改善したという例があります。
これまで腸は「ただ栄養を吸収するだけの器官」としか認識されていませんでしたが、最近の研究で全身の健康に大きな影響を及ぼす器官であることがわかってきました。
例えば腸には全身の免疫細胞の70%が集まっています。外から取り込んだ食物を消化して吸収する腸が一番病原菌などの異物が体内に侵入するリスクが高いからです。
出典元:サントリー健康情報レポート
腸の免疫機能は腸のみに働いているのではなく、全身の免疫機能にも影響を与えていると考えられます。いわば腸は全身の免疫機能の司令塔なのです。
また、体の組織は上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織の4つに大きく分類されますが、皮膚と腸をはじめとする消化器官は同じ上皮組織に属しています。
出典元:「上皮管腔組織の形成・維持と破綻における極性シグナル制御の分子基盤の確立」
実は消化器官も皮膚と同じ体の表面であるともいえるのです。口から肛門までの消化器官を大きな空洞と考えると、皮膚と消化器官は同じように体の外と接していることになるからです。その意味では、皮膚と消化器官に包まれている部分が本当の体内ということになります。
皮膚がバリア機能で体を外部から守っているのと同じように、腸をはじめとする消化器官も食物という外部を吸収すると同時に、それから体を守っていることになるのです。
そうしてみると、大きな区分では皮膚も腸も同じ役割を持つ同種の組織と見なすことができます。そのため、腸の状態が皮膚に影響するということもあり得ることだと理解できます。
乳酸菌を用いたアトピー治療の例
腸内環境を整えるために乳酸菌やビフィズス菌を摂取することが注目されています。実際に乳酸菌入りのチョコレートなどの商品が次々に開発されています。
医療の面でも乳酸菌の摂取は取り入れられてきています。特に治癒が難しいとされているアトピー性皮膚炎に対して効果を挙げています。
たとえば、両親がアレルギー体質だと一般的に子どもにもその体質が遺伝する確率は高くなることが知られている。
しかし、フィンランドでの実験では、アトピー性皮膚炎の家族歴のある妊婦を対象に、出産1カ月前から出産6カ月後まで乳酸菌を継続的に摂取したグループは非摂取グループに比べ子どものアトピー性皮膚炎の発症率が半減し、しかもその効果が7年経過しても効果があることが示された。
腸には全身の免疫細胞の70%が集まっているため、乳酸菌の摂取によって腸内の免疫細胞が活性化されることで全身の免疫機能にも影響を与え、皮膚のアレルギー症状も改善されると考えられています。
乳酸菌の摂取によってアトピー性皮膚炎が改善されるというのは、まさに腸内環境が皮膚に影響を与えることを示しています。
腸内細菌が活性酸素を消す
腸内環境を整えることで、どんな育毛効果を期待できるのでしょうか。
『55歳のハゲた私が76歳でフサフサになった理由』の著者である藤田紘一郎先生は、腸内環境を整えることで頭皮にダメージを与える活性酸素を減少させることができると述べられています。
活性酸素は生物が酸素からエネルギーを作る過程で発生してしまいます。活性酸素は有害性が高いため、人体で発生した活性酸素は抗酸化作用のある酵素によって除去される仕組みになっています。抗酸化作用とは「活性酸素を抑える働き」のことです。
酵素によって除去されなかった活性酸素はタンパク質やDNAにダメージを与えるため老化につながり、ガンや様々な生活習慣病の原因となるといわれています。
活性酸素は当然頭皮も老化させてしまいます。人間の体内の抗酸化力は20歳をピークに低下してしまうので、活性酸素による頭皮の老化は薄気にも大きな影響を与えていると考えられるのです。
ですから活性酸素を抑えることが出来れば、頭皮の老化を防いで毛髪の成長力を維持することができるのです。
藤田先生によれば、細菌には非常に強い抗酸化作用が備わっているということです。人間以外の生物も紫外線を浴びると活性酸素が生じますが、進化の過程で海から陸に進出した生物には、地上に降り注ぐ紫外線からのダメージを防ぐ抗酸化力が備わっていました。
この抗酸化力を最も早く獲得したのは原始的な生物である細菌や酵母であると考えられています。私たち人間に備わっている抗酸化力の大元はこの細菌たちのものであるともいえるのです。
人間の腸内フローラと呼ばれる腸内の細菌郡は約3万種、100兆個の細菌で構成されています。この抗酸化力の塊である腸内細菌を活性化させれば、活性酸素を抑制して頭皮の老化を防ぐことが可能になるのです。
重要なのは日和菌
では、どうすれば腸内細菌を活性化することができるのでしょうか。
世間では乳酸菌やビフィズス菌などのいわゆる「善玉菌」を摂取することが重要だといわれていますが、藤田先生は「日和見菌」こそが重要であると述べられています。
一般的に体内に生息する細菌のなかで人間にとって良い働きをするものを「善玉菌」、悪い働きをするものを「悪玉菌」、時と場合によっていい働きもすれば悪い働きもするものを「日和見菌」といいます。
しかし「善玉菌」「悪玉菌」というのはあくまで一般的な分類で、腸内細菌は正確には以下の4つに分類されます。
バクテロイデス門 (日和見菌)
アクチノバクテリア門 (善玉菌)
プロテオバクテリア門 (悪玉菌)
藤田先生は活性酸素の除去に重要なのはバクテロイデス門であると考えられています。バクテロイデス門の細菌は腸内で水素を発生させると考えられるからです。
どうして水素の発生が活性酸素の除去にとって重要なのでしょうか。水素の還元作用で活性酸素の酸化力が無効化されるからです。
「酸化」とは他の物質から電子を奪われて劣化することです。活性酸素が有害なのは電子構造が不安定なため、まわりの物質の電子をすぐに奪って「酸化」させてしまうからです。この酸化が頭皮などの老化につながります。
出典元:「漢方がん治療」を考える
「酸化」とは反対に電子を受け取って安定することが「還元」です。水素の還元力は非常に強く、活性酸素と結合して水となります。
このようなわけで水素を発生させる腸内細菌を活性化させることが、活性酸素による全身の老化を抑制し、頭皮の老化も抑制されるのです。
どの腸内細菌が水素を発生させるのかは現段階では特定されていませんが、藤田先生はバクテロイデス門がそうではないかと考えられています。
食物繊維をとって髪を増やす
バクテロイデス門は食物繊維を多く摂ると繁殖力が高まります。食物繊維を多く摂ることで頭皮の老化を防ぐことが期待できるのです。
食物繊維には水に溶ける「水溶性」のものと、溶けにくい「不溶性」のものがあります。腸内細菌が好むのは発酵させやすい「水溶性」の食物繊維です。
水溶性の食物繊維が多い食品には下記のようなものがあります。
豆類
エシャロット
ニンニク
ゴボウ
キャベツ
アボカド
梅干し
コンニャク
納豆
メカブ
オクラ
モロヘイヤ
山芋
サトイモ
一方、「不溶性」の食物繊維にも腸内にある不要物の排出を促す働きがあるので、摂取することで腸内環境が整います。
不溶性の食物繊維は下記の食品に多く含まれます。
おから
納豆
モロヘイヤ
オクラ
シソ
パセリ
ニラ
キノコ類
カンピョウなどの乾物
オクラや納豆などのネバネバのある食品は「水溶性」「不溶性」両方の食物繊維を多く含んでいるようです。
食物繊維は人体に吸収されないので、不要な成分と考えられてきましたが、腸内細菌の抗酸化力を高めるという意外な働きがあるようです。
腸内細菌を育毛の味方につけるためにも、積極的に食物繊維を摂っていこうと思います。