「自分がハゲること」ということは受け入れがたいことです。
この心理について『育毛セラピー』の鈴木さんがおもしろい説を唱えているので紹介します。
キューブラー=ロスの死の受容プロセス
『死ぬ瞬間』などで知られるエリザベス・キューブラー=ロスは、末期患者が死を受け入れる心理プロセスとして以下の5段階を唱えています。
1 「否認」
大きな衝撃を受け、自分が死ぬということはないはずだと否認する段階。2「怒り」
なぜ自分がこんな目に遭うのか、死ななければならないのかという怒りを周囲に向ける段階。3「取引」
延命への取引である。「悪いところはすべて改めるので何とか命だけは助けてほしい」あるいは「もう数ヶ月生かしてくれればどんなことでもする」などと死なずにすむように取引を試みる。神(絶対的なもの)にすがろうとする状態。4「抑うつ」
取引が無駄と認識し、運命に対し無力さを感じ、失望し、ひどい抑うつに襲われなにもできなくなる段階。5「受容」
部分的悲嘆のプロセスと並行し、死を受容する最終段階へ入っていく。最終的に自分が死に行くことを受け入れるが、同時に一縷の希望も捨てきれない場合もある。受容段階の後半には、突然すべてを悟った解脱の境地が現れる。希望ともきっぱりと別れを告げ、安らかに死を受け入れる。引用元:Wikipedia「死ぬ瞬間」
「ハゲの心理五段階」説
『育毛セラピー』の中で著者の鈴木さんは、このキューブラー=ロスの説になぞらえて、「自分が薄毛であること」の受容も5つの段階を経ると唱えています。
1 否認
自分の髪が薄くなっているという事実は、ある程度脱毛が進行してから気づくことになりますが、この事実に気づくと最初は「驚き」ますが、やがてこの事実を「否認」しようとします。
ふつう若い人ほど、否認の期間は長い。ハゲはあくまでも、中年期以降になるという先入観があるためだ。「 自分はハゲてなんかいない。まさかこの自分がそうなるわけがない」という否認の感情は、長い人では数年続く。
引用元:鈴木拓也『育毛セラピー 』
2 怒り
「否認」の次には「よりによって、何故自分が薄毛にならなければいけないのか」という「怒り」の感情がわいてくることになります。
3 取引
「否認」したり、「怒り」を爆発させてもどうしようもないと理解すると「取引」によって活路を求めようとします。
末期患者の場合は、「信仰心に目覚めたので延命してほしい」と神や聖職者に取引を求めますが、薄毛の場合は育毛サロンや育毛剤などの育毛サービスが取引の相手となります。
多くの人は、この段階で挫折感を味わうことになる。焦りから、どうしても即効性を得ようとするため、ちょっと試してみて効果が見えないと、次の商品やサービスに飛びついてしまう。
引用元:鈴木拓也『育毛セラピー 』
効果のある育毛剤や他の育毛法でも、その効果が実際に現れるには最低でも半年は必要になりますが、そこまで我慢できる人は多くはいません。
鈴木さんはその理由を「育毛サービスが効果ばかりを強調して、効果が出る確率や期間などの正確な情報を出さないからだ」と指摘しています。
強調された効果のみを信じて育毛サービスを試しても、「最低半年は必要」という重要な情報を認識していないために、「この方法では効果がでない」と早々と次の育毛サービスに切り替えることを繰り返してしまうのです。
4 抑うつ
「薄毛の進行は止められない」というやるせなさから、憂鬱な気分や無力感に支配される段階です。
「取引」段階で期待していた育毛サービスで効果が出なかった場合に、その反動として「抑うつ」的な心理に移行してしまうのです。
5 受容
いろいろ試してみても状況は好転しないことを痛感して、「残りの人生をどうにか薄毛で過ごしていくしかない」と悟る段階です。
不利な「取引」をしていないか
「自分が死に至る病に冒されていること」と「薄毛になること」とを同列で考えるのは不謹慎かもしれませんが、確かに「なぜ自分が?」と受け入れがたい心理になるのは共通しています。
また「取引」の段階で、不利な取引をする傾向がある点も似ています。
不治の病が治るなら、全財産をつぎ込む人もいるでしょう。その実際の価値は問題ではなく、「不治の病を治す」という点がその価値をどんどんつり上げていくのです。
薄毛の場合でも、常識で考えれば割高なサービスでも、本人にしてみると「薄毛が克服できる」なら相応の価値であると判断されるわけです。
いわゆる「足下を見られている」状態です。
別の記事で書きましたが、私は以前、高額な育毛サロンのサービスを受けることを本気で検討したことがあります。
今なら、育毛サロンのサービス内容はその金額に見合わないと考えることができますが、当時は私の中で育毛サロンへの期待とその金額が釣り合っていたのです。
このように薄毛の場合でも、不利な取引をしてしまう可能性があります。
やみくもに「取引」すると「抑うつ」がひどくなる
「取引」の次の段階は「抑うつ」ですが、「取引」時の期待が大きければ大きいほど、その後の「抑うつ」も大きくなるように思います。
鈴木さんが指摘しているように、即効性を求めるあまり次々に違う育毛法を試していくと、「これだけやっても効果がない」という失望も深くなります。
ですので、育毛法に取り組む時にはできるだけ確証のあるものにじっくり取り組む必要があります。
拙速に効果を求めてしまうと、効果が出る前に「効果が出ない」と判断してしまい、育毛の可能性の芽を摘み取ってしまうことになりかねません。
適切な育毛にはある程度の「受容」が必要
育毛に取り組む際には、「否認」→「怒り」→「取引」→「抑うつ」→「受容」というプロセスをどのように考えればいいのでしょうか。
分岐点は「取引」において、適切な育毛法を選択できるかどうかです。
それのためには先ほど述べたように、即効性を求めてはいけません。
では、そのためにはどうしすればいいのでしょうか。
「取引」段階において即効性を求めるのは、最初の「否認」の感情が大きいためだと考えられます。
「私が薄毛になるはずがない!」という「否認」が大きいほど、
現実の理不尽さに対する「怒り」が大きくなり、
それは自分が否定したい状態を解消したい(薄毛を克服したい)欲求を強めることになります。
その欲求が即効性を求める心理につながります。
即効性を求める気持ちを緩和するためには、「否認」の感情を抑えなければいけません。
そのためには「否認」とは反対の、「自分は薄気である」という認識が必要になります。
現状を肯定することで、不利な「取引」を拙速に結ぶことを防ぐことができるのです。
また、現状をある程度肯定できるのなら、気長に育毛法の効果を待つこともできます。
「育毛法を試しているけれども効果が出ない」と感じるときには、その後に大きな「抑うつ」段階に達しないためにも、一度現状を肯定することを考えてみてはいかがでしょうか。