育毛の大敵とされる頭皮の皮脂。
しかし、実は皮脂が育毛に悪いという医学的な根拠はないのです。
皮脂と薄毛の医学的データ
一般的に「皮脂は頭髪の成長を阻害する」という考えが主流です。
そのため、育毛のためにはシャンプーで過剰な皮脂を取り除かなければならないと考えられてきました。
しかし、実はこの「皮脂は頭髪の成長を阻害する」という説には医学的な根拠はないのです。
むしろ、この説を反証する研究があります。
1968年アメリカのメイバック先生らは男性型脱毛症になっていない男性11名の一部頭髪を剃った頭皮と、男性型脱毛症の男性11名の頭皮から、皮脂を吸い取りました。そして、男性型脱毛症になっている男性となっていない男性の頭皮で、皮脂量の差があるかどうか調べました。その結果、これら2郡の間に頭皮の皮脂量において、統計学的に有為な差はありませんでした。
引用元:乾重樹他『薄毛の科学』
この研究から、頭皮の皮脂量と男性型脱毛症(AGA)とは関係ないことがわかります。
また、同じ研究で1時間あたりの皮脂の分泌量を調べてみたところ、こちらも男性型脱毛症の人とそうでない人との間に違いはなかったそうです。
これらの研究から医学的には「皮脂は頭髪の成長を阻害する」という説は、巷に流布する迷信の類いだと考えられています。
日本皮膚科学会が2010年に制定した「男性型脱毛症診療ガイドライン(2010 年版)」でも皮脂の除去については特に触れられていません。
脂漏性皮膚炎の影響
皮脂が薄毛と関係があると考えられるのは、脂漏性脱毛症が関係しているようです。
脂漏性脱毛症は脂漏性皮膚炎に伴う脱毛症です。
脂漏性皮膚炎(SD)は,皮脂腺の密度が高い部位(例,顔面,頭皮,体幹上部)に生じる皮膚の炎症である。原因は不明であるが,皮膚の常在菌であるMalassezia ovale(以前のPityrosporum ovale)が何らかの役割を果たしている。(中略)SDでは,ときにそう痒,フケ,ならびに髪際部および顔面の黄色調かつ脂ぎった鱗屑が生じる。
脂漏性皮膚炎の原因はまだ解明されていないようですが、からだの皮脂が多い部分に発症すること、脂を好む皮膚常在菌の一種であるマラセチアが発現箇所に多く見られることなどから、その原因には皮脂が関係していると予想されています。
いわゆるフケ症は脂漏性皮膚炎の初期症状だと考えられています。
男性型脱毛症には、この脂漏性皮膚炎に伴う脂漏性脱毛症が合併することがしばしば起こるため、「脂漏性皮膚炎と皮脂の関係性」が「男性型脱毛症と皮脂との関係性」に結びつけられて、「皮脂は頭髪の成長を阻害する」説が出来上がっていったようです。
髪に行きわたらない皮脂
いわゆるハゲ頭の人は頭皮が皮脂でテカっていることも、「皮脂は頭髪の成長を阻害する」説の根拠の一つと考えられているようです。
しかし、先ほど紹介したアメリカの研究で男性型脱毛症の人とそうでない人とで、皮脂量の違いはないという結果が出ています。
ハゲ頭の人の頭皮がテカっているのは、毛量が少ないために分泌された皮脂が毛に行き渡らないからだと考えられます。
十分な毛量があれば、ブラッシングすることによって、頭皮に分泌された皮脂を髪のコーディング剤として髪全体に行き渡らせることができます。
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男性型脱毛症になっても頭髪が全くなくなるわけではなく、太く成長期が長い(従って長く伸びる)硬毛が、細く成長期が短い(長く伸びる前に抜けてしまう)軟毛になるというのが実態です。
軟毛は細く短いため、頭皮の皮脂が行き渡る面積が小さくなってしまうのです。
角栓は毛の成長を塞ぐのか
また頭皮の毛穴にできる角栓も、「皮脂は頭髪の成長を阻害する」説の根拠とされています。
角栓とは、皮脂腺から分泌された皮脂と毛穴の周囲の角質が毛穴の中で混ざり凝固したものをいいます。
こうした理由から、育毛のためには角栓やその元である皮脂は取り除かないといけないと言われています。
しかし、角栓が毛穴を塞ぐ頻度はそんなに高いのかという疑問があります。
そう考えるのは、毛穴の中には常に下から上にものを動かす力が働いていると思うからです。
1つには、成長する毛は常に下から上に伸びていくので、それにつられて角栓も毛穴の外に動いていくのではないかということがあります。
さらに、毛穴の中の皮脂腺から分泌される皮脂も毛穴の外に出て行こうとしますので、これも角栓を毛穴の外に動かす力になります。
出典元:メナード化粧品「用語辞典」
また、角栓を取るためにオイルクレンジングが有効ともいわれています。
オイルを頭皮に塗ることで、オイルが角栓を溶かしたり、浮かび上がらせたりして、シャンプーで取り除きやすくなるといわれています。
この「油で脂を溶かす」方法が有効ならば、同じ毛穴から分泌される皮脂でも角栓は溶けるのではないでしょうか。
しかも、同じ皮脂によって角栓は作られているわけですから、他の油よりも溶け合う度合いは高いように思います。
炎症にもシャンプーは逆効果
ニキビの原因は、角栓などで毛穴が塞がり、その中で皮脂が溜まることで、毛包の常在菌であるアクネ菌が増殖して、皮膚を刺激する物質を産出するためだといわれています。
このように皮脂が原因で毛穴に炎症が起こる可能性はありますが、それでもシャンプーで皮脂を取り除くことが正しいとは限りません。
1 結局、皮脂は再分泌される
シャンプーで皮脂を取り除いたとしても、数時間で皮脂は再分泌され、元の分泌状態に戻ります。
たとえ皮脂が脱毛の原因だとしても、数時間しか取り除けないなら、あまり意味がないように思います。
むしろ、再分泌によって皮脂量を増やしてしまう可能性があります。
2 常在菌のバランスを崩す
皮膚のトラブルの多くは常在菌のバランスが崩れることで起きます。
先ほどのニキビもその一例です。
弱酸性の皮脂膜によって悪玉菌の増殖を抑えているのが理想的な肌の状態です。
しかし、シャンプーは皮脂を取り除き、皮膚常在菌も取り除いてしまいます。
シャンプーの殺菌作用もそうですが、シャンプー自体が腐らないように配合されている防腐剤も常在菌にダメージを与えます。
シャンプー後も常在菌はまた増殖を始めますが、皮脂膜が再生されない状態では悪玉菌が優勢に増殖してしまい、炎症の原因になる可能性があります。
3 すすぎ残しが接触性皮膚炎を起こす
シャンプーが致命的なのそれ自体が皮膚の炎症の原因になり得ることです。
育毛サロンであれ、美容室であれ、どんなシャンプーでもすすぎは十分行うようにと指導されます。
シャンプー自体の両面活性剤によって、皮膚が変性する可能性があるのです。
皮脂による炎症を防ぐためにシャンプーで皮脂を取り除くけれども、そのシャンプー自体も炎症の原因になるので注意しなければいけないというのは、皮肉なことです。
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ブラッシングで皮脂を分散
皮脂は皮膚の健康のためにはなくてはならないものです。
- 皮膚を弱酸性に保って悪玉菌の増殖を防ぐ
- 皮膚を保湿する
- 髪の毛をコーディングして、ツヤを出し保湿する
こうした重要な働きをする皮脂を安易に取り除いてしまうのはもったいありません。
皮脂が多いと感じるのなら、ブラッシングをして余分な分を髪に行き渡らせるようにしましょう。
ブラッシングによって、頭皮表面の皮脂量が減り、髪は天然の保湿クリームでツヤとうるおいを得ることができます。
せっかく分泌されている皮脂は有効活用したいものです。
頭皮はにおって当たり前
頭皮のにおいが気になるので、皮脂は取り除きたいという人も多いと思います。
しかし、私の経験上、シャンプーをしていた頃の方が、湯シャンを実践している現在よりも頭皮のにおいはきつかったように思います。
皮脂の再分泌によって結果的に皮脂量が多くなったためか、皮膚常在菌のバランスが崩れてにおいを出す菌が増えていたのかもしれません。
湯シャンを実践している今では頭皮が多少におうのは自然なことだと思っています。
お湯で洗っていれば、適度に皮脂が流されて、他人を不快にさせるほどにおうことはありません。
皮脂を味方につける
マイクロスコープで頭皮を見るようになって、頭皮に皮脂が分泌されている状態のほうが自然だと思うようになりました。
当初はシャンプーをした後の皮脂がない状態の方がよい状態だと感じていましたが、皮脂の重要性を知るにつけ、皮脂が絶え間なく分泌されることはありがたいことだと思うようになりました。
現在、薄毛を克服するには至っていませんが、毎朝ブラッシングして髪にツヤを出すのが楽しみになっています。
「皮脂は頭髪の成長を阻害する」という説には医学的な根拠はありません。
育毛のためには、皮脂の性質を知って上手に利用していきましょう。